岡山大学 組織機能修復学分野

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論文が受理されました(Slc38a1(SNAT1)の阻害剤の探索)

以下の論文が受理されました。
ご協力いただいた先生方ありがとうございます。
特に、山田さんが、粘り強くEditor/Reviewerコメントに対応してくれました、本当にお疲れ様でした。

 オートファジーが効率良く誘導される条件は、アミノ酸やインスリンの欠乏であり、これらの信号は、細胞内制御因子mTOR (mammalian target of rapamycin)を介したシグナルにより制御されています。mTORは、通常オートファジーを抑制していますが、糖や栄養素(アミノ酸)の飢餓が起こると、mTORが抑制され、通常抑制されていたオートファジーが脱抑制され、オートファジーが活性化されることがしられています。したがって、mTORを抑制する薬剤は、オートファジー活性化剤候補として挙げられ、代表的な薬剤の一つにラパマイシンが知られています。mTORの活性阻害をターゲットにした疾患治療が注目され、数多くのmTOR阻害薬物が開発されていますが、全身性にmTORの機能を抑制させるmTOR阻害剤を、特定組織に現れる病変に適用することは、主作用/副作用の観点から現実的には難しいわけです。

 mTORは、細胞内のアミノ酸量の増減を感知する機構を持ち合わせています。つまり、細胞内のアミノ酸(特にロイシンやグルタミン)の量が多い場合(高栄養時)はmTORC1の活性は正に、一方アミノ酸量が低い場合(飢餓時)には、mTORC1の活性は負に制御される。したがって、細胞内アミノ酸プールが減少したことを感知したmTORは、その活性が負に制御され、結果オートファジーが活性化され、細胞内タンパク質をリソソームにて分解することで、細胞内アミノ酸プールを上昇させるという素晴らしいシステムを細胞は備えています。私たちはこの機構に注目し、特定組織/細胞で選択的に高発現し、かつmTORを制御するアミノ酸トランスポーターを探索し、その阻害剤を開発することができれば、部位特異的にオートファジーを活性化させる薬物治療が可能となるのではないかと考えました。

 mTORを制御する代表的アミノ酸であるロイシンやグルタミンを輸送基質とするアミノ酸トランスポーター14種類に注目し、それらの発現をマウス各組織で調べると、その中でもグルタミンを輸送基質とするSlc38a1(SNAT1)が脳組織の、特に神経細胞にかなり限局的に発現していることを見出しました(in situ/免染で見る限り、かなり選択的な印象あり)。そこからはお決まりの手法で、Slc38a1のconditional KOマウスを作製して(これは、世の中に存在してなかったのでtargeting vectorの作製⇒組み換えES作製⇒キメラマウス⇒congenic化を実施、理研の先生方ご協力本当にありがとうございました)、in vitro/in vivoの解析を進めることで、Slc38a1(SNAT1)は、神経細胞でのmTOR活性を制御していることが分かり、特にSlc38a1(SNAT1)の阻害が、mTOR抑制/Autophagy活性化を介して神経保護的に作用することを見出すことができました。

Slc38a1(SNAT1)の競合阻害剤であるMeAIBを投与することでもSlc38a1(SNAT1)欠損と同様の結果が得られるので、Slc38a1(SNAT1)の阻害剤の探索は、有望な神経保護剤の開発につながることが期待されます。

Daisuke YamadaKenji KawabeIkue TosaShunpei TsukamotoRyota Nakazato, Miki Kou, Koichi Fujikawa, Saki Nakamura, Mitsuaki Ono, Toshitaka Oohashi, Mari Kaneko, Shioi Go, Eiichi Hinoi, Yukio Yoneda and Takeshi Takarada* (2019) Inhibition of the glutamine transporter SNAT1 confers neuroprotection by modulating the mTOR-autophagy system. Communications Biology, in press.
https://www.nature.com/articles/s42003-019-0582-4