岡山大学 組織機能修復学分野

コロンビア大学との共同研究成果が論文化(Fang et al, Nature, 2025)されました。RUNX2 が肺線維化を促進する、 病理的線維芽細胞への移行メカニズムを解明

Yinshan Fang, Sanny S. W. Chung, Le Xu, Chenyi Xue, Xue Liu, Dianhua Jiang, Rongbo Li, Yohei Korogi, Ke Yuan, Anjali Saqi, Hanina Hibshoosh, Yuefeng Huang, Chyuan-Sheng Lin, Takeshi Takarada, Tatsuya Tsukui, Dean Sheppard, Xin Sun, Jianwen Que. RUNX2 promotes fibrosis via an alveolar-to-pathological fibroblast transition. Nature,640, 221–230.

肺線維症では、線維芽細胞が異常に活性化して過剰な細胞外マトリックスを産生し、肺組織が硬化して呼吸機能が低下します。本研究では、転写因子RUNX2がこの線維化プロセスの中心的なドライバーであり、正常な肺胞線維芽細胞を病理的線維芽細胞へと変換する鍵分子であることを明らかにしました。

マウス線維化モデルを用いた系統的解析により、LEPR陽性線維芽系細胞が線維化過程でCTHRC1陽性・POSTN陽性線維芽細胞へと分化することが示されました。シングルセルRNAシーケンスおよびATACシーケンス解析の結果、RUNX2がこれらの遺伝子群の発現を制御する主要な転写制御因子であることが判明しました。さらに、RUNX2を条件的に欠損させたマウスでは、病理的線維芽細胞の形成が抑制され、線維化の進展や細胞外マトリックスの沈着が顕著に減少しました。また、ヒトの特発性肺線維症(IPF)患者由来線維芽細胞においても、RUNX2がECM産生促進に関与していることが確認されました。

本研究は、RUNX2を標的とした新しい抗線維化治療の分子基盤を提示するものであり、異常な線維芽細胞分化を根本的に制御する治療戦略の確立に向けた重要な知見を提供します。