iPSC由来肢芽間葉系細胞(Yamada et al, Nature Biomedical Engineering, 2021)の研究の続報です。
Daisuke Yamada, Tomoka Takao, Masahiro Nakamura, Toki Kitano, Eiji Nakata, Takeshi Takarada (corresponding author). Identification of Surface Antigens That Define Human Pluripotent Stem Cell-Derived PRRX1+Limb-Bud-like Mesenchymal Cells. Int. J. Mol. Sci. 2022, 23(5), 2661; doi: 10.3390/ijms23052661.
関節軟骨再生を目的とした再生医療では、ヒトiPS細胞(hiPS細胞)から安定して高品質な軟骨前駆細胞(肢芽様間葉系細胞, Limb-bud-like mesenchymal cells; LBM)を誘導する技術が求められています。本研究では、LBM誘導の効率を正確に評価するため、PRRX1遺伝子の発現を指標とするレポーター細胞株を用いて、LBM細胞を定義づける新たな表面抗原マーカーを同定しました。
ヒト多能性幹細胞(hPS細胞)を出発材料とし、PRRX1-tdTomatoレポーター系を活用して分化過程を可視化した結果、培養初期における細胞密度の高さがPRRX1発現を著しく抑制することが明らかになりました。すなわち、分化前のhPS細胞密度を最適化することが、安定したLBM誘導に必須であることが示されました。さらに、RNAシーケンスおよびフローサイトメトリー解析により、PRRX1陽性LBM細胞はCD44<sup>high</sup>・CD140B<sup>high</sup>・CD49f<sup>−</sup>表現型で定義できることを発見しました。この特徴は、複数のiPS細胞株(414C2, 1383D2, HPS1042, HPS1043)およびES細胞株(SEES4, SEES7)でも共通して確認され、LBM誘導効率を判定する普遍的な品質指標として機能することが示されました。
本研究は、再生医療製品化を目指す軟骨再生研究において、ヒトiPS細胞からの分化誘導プロセスを定量的に評価できる品質保証系を確立した初の報告であり、PRRX1およびその関連抗原を基軸とした標準化可能な細胞製造技術の基礎を築く成果です。