岡山大学 組織機能修復学分野

論文(Osone et al, bioRxiv, 2025)が掲載されました!ヒト特異的長鎖ノンコーディングRNAが軟骨形成を制御する可能性を発見

Tatsunori Osone, Tomoka Takao, Takeshi Takarada. The Role of Human-Specific lncRNA in Hyaline Cartilage Development. bioRxiv, 2026, doi: https://doi.org/10.64898/2026.02.17.706478

本研究では、ヒト特異的 long non-coding RNA(lncRNA)が軟骨形成に果たす役割について、ヒト iPS 細胞を用いた発生模倣モデルを用いて解析しました。

ヒトは他の霊長類と比較して骨格構造が大きく異なり、特に直立二足歩行を可能にする骨盤や下肢の構造が特徴的です。しかし、このようなヒト特有の骨格形態を生み出す分子メカニズムは十分に解明されていません。

私たちの研究グループではこれまでに、ヒト iPS 細胞から**四肢芽様間葉系細胞(ExpLBM)を誘導し、そこからヒト硝子軟骨様組織(HCT)**を形成させる技術を開発しています。この分化過程は、ヒト四肢骨格形成の発生プロセスを模倣するモデルとして利用できます。本研究では、このモデルを用いて軟骨分化過程における RNA 発現を比較し、とくにヒト特異的 lncRNA に注目して解析を行いました。

その結果、ExpLBM と HCT を比較した RNA-seq 解析により、軟骨分化に伴って発現が上昇する lncRNA が多数同定され、その中から36種類のヒト特異的 lncRNAが抽出されました。さらに、これらの lncRNA の機能予測を行ったところ、RNA スプライシングや mRNA 代謝など、遺伝子発現制御に関わる分子と相互作用する可能性が示されました。

また、lncRNA が DNA と三重らせん構造(triplex)を形成する可能性を解析したところ、COL2A1、ACAN、COMP などの軟骨関連遺伝子や、細胞外マトリックス(ECM)関連遺伝子のプロモーター領域と相互作用する可能性が示されました。これらの結果から、ヒト特異的 lncRNA が軟骨の ECM 構成や軟骨細胞の分化制御に関与している可能性が示唆されました。

興味深いことに、ヒトはチンパンジーなどの近縁種と比較して大腿骨の角度が大きく、関節にはより大きな荷重がかかります。本研究の結果は、ヒト特異的 lncRNA が ECM 構造の制御を通じて、二足歩行に適応した関節構造の形成に関与している可能性を示唆しています。

本研究は、ヒト特異的な遺伝子調節機構が軟骨形成や骨格進化に関与する可能性を示したものであり、進化生物学的な理解を深めるだけでなく、ヒト関節軟骨により近い再生軟骨組織の開発にもつながる知見と考えられます。また、変形性関節症などヒトに多い疾患の理解にも寄与することが期待されます。