当研究室では、「iPS細胞」および「再生医療」に関する研究を中心に行っています。特に、ヒトの発生過程を模倣して軟骨に分化誘導する技術を開発しています。iPS細胞は、変形性膝関節症などの軟骨関連疾患の治療において画期的な手段となり得る人工多能性幹細胞であり、これを活用することで患者の関節痛や運動制限といった症状が軽減され、日常生活においてより活動的で快適な生活が期待されます。
ヒトの発生過程を模倣した治療法の具体的な効果
当研究室のアプローチは、ヒトの発生過程を模倣することで、iPS細胞を軟骨に効果的に分化させることにあります。この手法が成功すれば、変形性膝関節症患者において、軟骨の再生や修復が可能になります。結果として、関節の機能が向上し、患者は痛みなく動くことができるようになるでしょう。これにより、日常生活において楽しさや快適さを取り戻すことが期待されます。
何故この研究をしているのか
PIである宝田は、もともと独立前の金沢大学時代に、遺伝子組み換えマウスを使用した骨格形成過程での骨格標本観察や組織観察、培養細胞を使用した分子細胞生物学的な解析に従事し、受精卵から生命が作り出される過程の美しさ、緻密さに感銘を受けました。医学部にて独立ポジションを得た際に、これまで培った知見を応用しようと考え、iPS細胞などのヒト多能性幹細胞研究をラボにて立ち上げました。
LBMは、側板中胚葉に由来し、四肢骨格を構成する多くの細胞種(軟骨細胞、骨芽細胞、腱・靭帯細胞、真皮線維芽細胞など)への分化能力を有しています。ヒト多能性幹細胞に由来するLBMを利用することで、幹細胞/前駆細胞の分化階層性モデルのどのような分岐点で、どのようなシグナルが、どのような細胞内変化を起こし、どのような時間的・空間的調和により各種多様な細胞種が生み出され、美しいヒトの骨格がつくりだされるのか理解したいと考えています。
当研究室の成果と将来展望
2021年に、四肢(両手・両足)の原器である肢芽を構成する細胞群である肢芽間葉系細胞(Limb bud mesenchymal cells, LBM)を誘導/拡大培養する技術の開発に成功しました(Nature Biomedical Engineering, 2021)。
組織機能修復学分野の研究室では、iPSと再生医療を結びつけた研究を通じて、変形性膝関節症などの軟骨関連疾患の治療法において画期的な進展を目指しています。新しい医療の創出という点においては、LBMを新しい細胞源として利用して、軟骨などの運動器への再生医療へ展開することが出来ます。また、骨格系統疾患患者由来iPS細胞を利用することで、患者病態を培養皿上で再現し、薬の開発につなげることも可能です。さらに、この技術を利用すれば、発生過程を模倣して誘導したヒトでの各種四肢構成細胞を調整することが可能なので、ゲノム編集技術を兼ね合わせることで四肢に発生する骨軟部腫瘍(がんの一種)の成り立ちを理解し、がん治療へ応用することも可能であると考えています。